「 東京で暮らすと、みんな遅くまで働ぐ理由が
よぐわがった。お金があれば、何でも
手に入るからだべさ。おらも、通しで働いた。
故郷に、一万二千円送って、
残業した分は、自分で使った。
あるとき、背広が欲しぐなった。丁度、
貴子と知り合った頃で、それを着て、二人で
銀座とか、新宿さ歩いてみたぐなった。
魔が差した。
仕送りする金に手を付けてしまった
だども、背広さ着て、差し向かいで、
すき焼き食べたら、どうでもよぐなった。
真面目に働いても、ええごとはねえ。
仕送りだけの人生なら、生きてる意味はねえ。
米の味さ覚えた子供に、麦を食え言っでも、
それは無理だ。
おらは、もう故郷さ帰りたぐねえ 」