「　ホンモノですか？　」

「　そうだ。桂谷峠には、何かある。

何かがいると言ってもいいかもしれん。

よほど気をつけてかからんと、危ないぞ　」

先輩は、ときどきこういう　「　信じてる　」

ようなことを言う。

俺はそのたびに、どうしてこの人が

成功しているのだろうと、思ってしまう。

世話になっている人を悪く思いたくないが、

こんなことを言う人間は馬鹿だとしか思えない。

幽霊について書くのはいい、

煽るのもいい、

だが、信じてどうするのか。

　　『　満願　』　　ｂｙ　米澤　穂信