だが、ここからが地獄の日々の始まりとも言えた。
控訴に当たって、その理由を示す「 控訴趣意書 」
を書かなければならないからだ。
控訴趣意書では、原判決の誤りを
つぶさに指摘する必要がある。
原審の証拠を引用し詳細な検討を加えていくと、
その分量はB5判の紙に最低百ページ、
多ければ三百から五百ページにも及ぶのだ。
ただでさえ日常の激務に追われている検察官にとって、
この臨時仕事は、重荷以外の何物でもない。
休日返上はもちろんのこと、平日も深夜までかけて
取り組まなければ間に合わない仕事量だ。
『 灰色の虹 』 by 貫井 徳郎