考えあぐねた末、めぐみは、おいしい弁当を作ることにした。
これまでも、手を抜いていたわけではなかったが、
残り物や、冷凍食品が多かったのは事実である。
全部手作りの、愛情を込めたお弁当。
蓋を開けたとき、わっと思わず声を上げてしまいそうな
美しいお弁当。
夫においしい弁当を持たせる。
午前中にミスをしたら、ランチで気を取り直してもらい、
午後に難事が待ち構えていたら、
ランチで勇気をつけてもらう。
会社が辛いところだとしたら、せめてランチタイムだけは、
憩いの時間であって欲しい。
ほかに何かあったら教えてくれ、
めぐみは、東京タワーのてっぺんから、
全国民に向かって、そう叫びたい心境である。
『 我が家の問題 』 by 奥田 英朗