以前のわたしは、朝が嫌いだった。
また、つまらない一日が始まってしまったと、
軽い絶望感すら覚えていたほどだ。
それなのに今は、朝は喜びを伴っていた。
今日も、木之内と会える。
彼の声を聞き、姿を見、そしてもしかしたら
触れ合うことすらできるかもしれない。
そう考えるだけで、わたしはたわいなく幸せになれた。
誰もが経験するような恋愛の魔法なのだろうが、
免疫がなかったわたしには、強烈だった。
恋愛は人生に必要なことなのだと、
深く実感した。
『 新月譚 』 by 貫井 徳郎