瑠璃子は知ってしまった。
好きな人とすごす時間が、
どれほど満ち足りたものであるかを知ってしまった。
その人と食事をしたり、ドライブしたり、
ベッドで愛し合っていたりするひとときが、
どれほと素晴らしいものなのかを知ってしまった。
だとしたら・・・だとしたら・・・
後戻りすることはできない。
たとえ、その行き先がとんでもなく
馬鹿馬鹿しいところだとしても、
どんなに惨めなところだとしても、
かつての味気ない日々に引き返すことはできない。
よし、この男といよう。
不幸になるなら、この男と不幸になろう。
『 蜘蛛と蝶 』 by 大石 圭