維新のどさくさのときに、家老である後藤象二郎は、独断で、
「 藩の大阪屋敷や江戸屋敷、それに汽船などは、
ぜんぶおまえに呉れてやる。商売をしろ 」
と、かれが可愛がっていた一藩士の岩崎弥太郎に
呉れてやった。
その岩﨑が、後藤からやみくもに貰った財物のなかに、
竜馬の社中の財産が多分にふくまれている。
岩崎は、これをもって、無一文から身をおこし、
竜馬の事業を継続し、のちの三菱会社に発展する
礎をきずきあげた。
もっとも、後藤のやりかたの面白さは、
「 呉れてやる代りに、土佐藩の債務も
おまえが、背負いこめ 」 と、
一挙に藩の債務問題を解決したことである。
岩崎は、事業の利潤で、旧藩の負債を、
たちまち返済した。
『 竜馬がゆく 』 by 司馬 遼太郎