『 だから、うまくできるようになってから、
人前にでて、仕事をしようと思うのは、
間違いなんじゃないかなァ。
失敗したら恥ずかしいとか、
間違えたら、安く見られるとか考えて、
それが、礼儀だとか、
おくゆかしいなんて、自分に言い聞かせる人は
つまりは、見栄っ張りで、勇気がないから、
せっかく、才があっても、それが育たない・・・・。
徒然なる心は、
そう言いたかったんだと思うんだけど・・・。』
『 なっ!わかるか?
自分は今修行中で、半人前だから、
もっとうまくなってから、お客さまにお出しできるものを、
作ろうなんて考えるやつは、
いつまでたっても、一人前にゃあなれないんだよ。
恥をかいて、叱られて、それでもめげずに、
舌の肥えたお客さまに、
料理を作りつづけたやつだけが、
あるとき、ぱっと、一皮も二皮もむけるんだ。』
「 約束の冬 」 by 宮本 輝