『 六 - 七 と 六 -八 』 と、言った。
そして、厚い一万円札の束を出した。
『 五十万円ずつですね。』
という係り員の声が聞こえた。
多田の中で、百万円を無造作に馬券に使ってしまえる
その女への軽い憎しみと、
ある確信に裏付けられたいたずら心が、浮かんだ。
多田は、馬券売り場へ行き、女の買った
二種類の連勝複式の馬券を、千円ずつ買った。
馬券をポケットに突っ込みながら
多田は、心の中でつぶやいた。
『 俺が買ったら、絶対外れるぜ。
気の毒だけど、百万円は、パーだな。』
「 優駿 」 by 宮本 輝