2012.12.26
カツ子は、青ざめた顔で、自分の産んだ子を
居間に通した。
縁側には、すだれが吊ってあり、
風鈴が、ときおりかすかに鳴った。
『 もう、親子とは違うのよ。』
開口一番、カツ子は言った。
たったその一言で、
16歳の多田は、涙ぐんだ。
『 勝手に訪ねて来てもらっても、こちらは、
迷惑なだけですから。』
『 はい。』
彼は、懸命に力を込め、そう返事をして、
立ち上がった。
「 優駿 」 by 宮本 輝