2014.02.26
香織は、全身で僕を必要としてくれた。
『 あなたがいるだけで 』
僕の身体の輪郭を確認するように、
両手でふれながら、香織はよくそう言ってくれた。
『 私は、幸せな気分になる。
あなたが、そうやって息をして、何かを考えて、
そこにいるだけで、 』
僕は、初めて自分が、
何かの言い訳や、闇や、屈折を必要とせずに、
この世界にいることを、許されたような
そんな感覚を覚えていた。
「 悪と仮面のルール 」 by 中村 文則