『 だいいち、うちなんか今年限りなんだから 』
『 どういうことよ 』
『 去年、祖父ちゃんが死んで、
相続税がはらえねえんだよ。
それで、土地を半分に割って物納さ。
秋には、テニスコートもなくなるし、
そろそろ、使用人も雇えなくなるし、
須賀家は、没落の一途よ 』
『 そうなんだ 』
『 そうさ、千駄ヶ谷なんて、あと数年で
アパートだらけさ 』
ミドリが立ち止まる。
『 ふうん、民主主義っていいものなのね 』
澄し顔で、微笑んだ。
「 オリンピックの身代金 」 by 奥田 英朗