「 いいか、初日の芝居が最後まで終わって
オペラカーテンが閉じていく 」
「 カーテンが閉じても、客席からはなにも聞こえねえ。
拍手どころか、咳一つねえ。
しん・・・と、静まりかえっている。
オレたちは、みんな蒼白になる。
しまった、ダメだった、失敗した、どうしよう・・・」
ミックが、悲しそうに目をつぶる。
「 そしたら、ぱちん・・・と一つだけ拍手が、聞こえるんだよ。
また、ぱちん、ぱちん、と聞こえた。
まばらな拍手が、少しずつ、起こるんだ。
少しずつ、少しずつ、拍手の数が増えていく。
まるで、遠くからなにかが近づいてくるような・・・
ああ、何人かは、オレたちの芝居を観て
楽しんでくれたんだ。よかった。
そう思ったつぎの瞬間だ。
まるで、地の底から噴き上がってくるような振動が、
ぶわーっと 」
ミックが目を見ひらき、
両手を高々とあげた。
「 劇場を揺らすんだ。
いままで、聞いたこともねえような、
嵐みたいな凄い拍手だ。
それだけじゃねえ。
うおおおーって、唸りとも、歓声とも知れねえ声が、
分厚いカーテンを震えさせる。
やがて、カーテンコールだよ。
カーテンがひらく。
目の前の客席に、座っている客なんて、一人もいねえ。
みんな立ち上がってる。
目は真っ赤で、でも、
この上なく満足そうな笑顔で、手を叩いている。
オレたちは、客席から伝わってくる
バイブレーションを、全身で受け止める 」
ミックが、両手を大きくひろげ、
感極まった表情で、目を閉じる。
・・・俺は、本気で感動してしまった。
『 ゴールデンタイム 』 by 山田 宗樹