中国大陸は、何百年に一度、すさまじい飢饉に襲われる。
青いものといえば、雑草一茎も
見当たらぬという状況のなかで、
村ぐるみ流民化して、他村を襲って、
その食物を食い、襲われたほうの村民も
村をすてて集団で流民化し、
食を求めて転々とする。
いわゆる英雄というのは、その状況下で成立する。
どこそこで、5千人を食わせる人がいるときけば、
殺到して、その傘下に入るのである。
やがて、その首領も5千人の食を保証しかねるとなると、
首領は四方をさがし、5万人の食を保証する者のもとに、
流民ごとなだれこみ、その傘下に入る。
ついには、百万人の食を保証する者が
最大の勢力をもつ者になるのだが、
こういう種類の存在を中国では、
英雄という。
『 項羽と劉邦 』 by 司馬 遼太郎