天王寺、新世界の立呑みというのは、
けっこうすさまじい。
僕がゆっくりと呑んでいると、
右にスッと人影が現れ、百円玉を二枚、
パシッとカウンターに叩きつける。
「 さけ・・・」
僕が、鯨のベーコンか何かをしがんでいて、
三、四秒して、ふっと右を見ると件の御仁は、
もう影も形もあとかたすらもない。
酒の一合を、台上にパシッと叩きつける二百円で買って、
寸秒で飲み干し、
顔の見分けもつかないうちに出る。
これが、新世界のやりかたなのだ。
今度は、左に人影がくる。
パシッ。二百円。二、三秒。またいない。
何か、手品を見ているようだ。
『 頭の中がカユいんだ 』 by 中島 らも