「 今だからお前に教えるけど、ばあちゃん、
俺のことが、孫の中で一番出来がいいって、
褒めてくれてたんだぞ 」
祖母の頬を撫でながら清志が言う。
「 嘘? 」
「 そんなに驚くことないだろう 」
「 だって、俺にも同じように言ってたもん。
孫の中で世之介が一番いいって? 」
「 嘘だろ? 」
「 ほんとだよ。『 あんたはいつもどっか抜けているけど
その分、欲がなくてよろし 』 って 」
「 俺には、『 清志は面倒見がいいから
将来絶対に出世する 』って 」
二人で、棺桶を覗き込む。
心なしか祖母が、ほくそ笑んでいるように見える。
「 ・・・ばあちゃん、やるねぇ 」
『 横道 世之介 』 by 吉田 修一