「 『 死ぬ 』ことも『 生きる 』ことも、
結局のところ、同じなんですよ 」
「 どうしてそうなるんです?死んだら、あなたと会えなくなる。
それはぜんぜん違うことですよ 」
「 違いません。生と死は同じ、等価なんです 」
「 ・・・よく分かりませんね 」
「 そうじゃないですか。生まれてきた者はかならず死ぬ。
それは、この世界に最初の生命が生まれてから、
一つの例外も許されてこなかった法則でしょう。
生と同じ数だけ死があった。
だから、生と死は等価なんです。
死ぬってことは、生きるってことなんですよ。
生きたからこそ死ねるんです。
だから、僕は生きた。もうじゅうぶん生きた。
そして、死ぬときがきた。
それだけのことです。
わかるでしょう?」
「 いま、生と死は、等価だといいましたね。
ほんとうに、そう思いますか?」
「 思いますね 」
「 あなたは、時と場所を選んで、
生まれてきましたか?」
「 え ・・・?」
「 違いますよね。人は生まれるとき、
時と場所を選べない 」
「 ・・・ 」
「 ということは、生と死が等価である以上、
死ぬときも、人は時と場所は選べない。
そういうことになりませんか 」
「 ・・・ 」
「 つまり、あなたには自由に死ぬ権利はない。
あなたは、自分でそう宣言したことになります 」
「 ・・・ 」
『 魔 欲 』 by 山田 宗樹