「 昔、聞いたことがある。たしか、イギリスかどこかに
将来を嘱望されている非常に優秀な大学医がいた。
あるとき彼は、北アフリカのとある港町を訪れた。
船からその町を見た瞬間、すべてを捨てて
その町に住む決心をした。
実際にそこで、しがない検疫官として暮らし始めた。
安定した今の生活と薔薇色になるだろう未来を捨ててね 」
「 ・・・ 」
「 十数年後、友達が彼のところをたずねた。
とても貧しい暮らしだったらしいので、
友達は聞いた。
すべてを捨てた挙句がこんな暮らしで満足なのかって、
彼は笑って答えた。満足だよって。
この暮らしに、一度も後悔を感じたことはないって。」
『 借金取りの王子 』 by 垣根 涼介