若者が死を恐れないのは、人生を知らないからである。
知らないのは、ないのと同じだから、
惜しいとも思わない。
我が子を抱いた感動も、大業を成しえたよろこびも、
肉親を看取った悲しみも、
旧友と語り明かした、温かみも、
ろくな経験がないから、
今燃え尽きてもいいなどと、平気で言う。
まったく、若者はおめでたい生き物だ。
おまけにやっかいなのは、渦中にいる物は、
その価値がわからないということだ。
健康の価値は、病気にならないとわからないのと同様、
若さの価値は、歳をとらないとわからない。
まことに神様は、意地が悪い。
『 純平、考え直せ 』 by 奥田 英朗