「 正勲 」と、研人は、声が高くなるのを
抑えて言った。
「 今夜のスケジュールは?」
「 六時には研究室を出られるよ 」
「 ちょっと遠いけど、町田まで来られる?」
「 バイクで行くから大丈夫 」
「 先に謝っておくけど、かなり厄介なことに
なりそうなんだ 」
「 それは、どんなこと?」
「 最悪の場合、正勲が警察につかまるか、
日本にいられなくなるかも知れない 」
受話器からは、絶句しているような沈黙が返ってきた。
「 それでもいいなら、来て欲しいんだけど 」
しばらくしてから、正勲は、
「 それが、最悪の場合だね 」と、訊いた。
「 そう 」
「 最良の場合は?」
「 全世界で、十万人の子供の命を救える 」
「 分かった 」 と、正勲は、
もとの朗らかな声に戻って言った。
「 いくよ 」
『 ジェノサイド 』 by 高野 和明