「 ずっと私に遠慮してたね 」
離婚した時、妻だった彼女は寂しげにそう言った。
「 でもそれは私への優しさじゃなくて、
あなたがつくってる壁なんだよ 」
僕は彼女が離婚を告げた時、
少しの抵抗もしようとしなかった。
「 私は人生をやり直したい。
やり直す、という言葉にあなたは傷つくかもしれないけど・・・。
新しい男性は、あなたより魅力がなくて、優しくもない。
でも、あなたよりシンプルなの 」
彼女はあの時、泣いた。
「 私はその人のそばで、平凡な主婦になるつもり 」
『 あなたが消えた夜に 』 by 中村 文則
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