『 ハゲワシと少女 』
報道写真に与えられる最高の名誉、
ピューリッツャー賞を得た写真のことを連想する。
1993年、内戦が続くスーダンで、
報道写真家 ケビン・カーターは一人の少女を発見した。
四肢は瘦せ衰え、栄養失調で腹ばかりふくらんだ少女が、
乾いた大地にしゃがみ込んでいる。
その数メートル後ろでは、地面に降りた
一羽のハゲワシが、少女の方を向いている。
写っているものは、それで全てだ。
けれど、この写真は強い連想を呼び起こす。
ハゲワシは、なぜそこにいて、
しゃがみ込む少女を見ているのか、
・・・間もなく命尽きる少女を、餌食にするためだ。
飢餓ゆえに人間が死に、鳥がそれを食おうとしている。
この写真は、その内包するメッセージの強さゆえ、
ピューリッツャー賞を得た。
しかし、写真家は賞賛だけでなく、
大きな批判にも晒された。
「 なぜ 」 批判者は言った。
「 なぜ、少女を助けなかったのか?
その場にいながら、あなたはだだそれを撮るだけで、
死のうとしている少女のためには、
何もしなかったのか? 」
写真家は、反論した。そうではない。
見殺しにしたわけではない。私は、
少女が自力で立ち上がって、配給所へ、
歩き出すのを確かめてから、その場をたちさったのだと。
しかし、少女の無事を見届けるカメラマンを
撮った写真はない。
疑問と批判のなか、
ピューリッツャー賞受賞者、
ケビン・カーターは、自らの命を絶った。
『 王とサーカス 』 by 米澤 穂信