「 佐々木さんが、はじめて、店に来て、かん高い声で
ビールを注文したとき、すぐ、耳の聞こえないことに
気がついたんです。
弟が、学校で覚えてきたことばを、
得意そうに口にするときの声と、そっくりだったからです。
自分がしゃべっているのに、その声がじぶんには聞こえない。
ほんとうに正確にしゃべっているのかどうか、
自分ではわからないんです。
弟の顔にも、佐々木さんの顔にも、
同じような不安の色が見えたんです。
だから、すぐにわかりました 」
『 四つの終止符 』 by 西村 京太郎