昔、学校の授業で粘土細工をつくった時のことを、
この前思い出したんだ。
僕のつくった粘土細工が夏の暑い教室の中で溶けて、
隣の粘土細工まで、浸食していった。
二つとも、トロトロと溶けていったんだ。
そんな粘土細工は、捨てられるしかない。
でもね、片方の、つまり僕の方の粘土細工は、
ゴミ箱へ落ちていくとき、笑っていたと思うんだ。
もう一つの粘土細工方が、
どんな表情をしているかわからないけど、
姉さんは、一人では決して堕ちていかない。
人を巻き込むんだ。
『 去年の冬、きみと別れ 』 by 中村 文則