『 光子ちゃんが、夜中に嘘のくしゃみをするねん。
何度も何度も、嘘のくしゃみをつづけるねん。』
その嘘のくしゃみで、月村兄妹の母親が、
帰っていることがわかるのだという。
けれども、そんな小さなくしゃみの繰り返しくらいでは、
目を覚まさないほどに、
兄妹の母親は、酔いつぶれている・・・。
房江は、溢れ出てきた涙をエプロンで拭いた。
嘘のくしゃみ・・・。
私も八歳の時、同じことをした。
だから、私には、
なぜ光子が、嘘のくしゃみを繰り返すのかがわかる。
母親に、自分のほうを向いてもらいたいのだ。
どうしたのか、
風邪をひいたのではないか、
と、額に掌をあてがってもらいたいのだ。
「 花の回廊 」 by 宮本 輝