R.4.1月3日(月)
曇りです。
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❮ 王とサーカス ❯ by 米澤 穗信
[ ハゲワシと少女 ]
報道写真に与えられる最高の名誉。
ピュリッツァー賞を得た写真のことを連想する。
1993年、内戦が続くスーダンで、
写真報道家ケビン・カーターは、一人の少女を発見した。
四肢は痩せ衰え、栄養失調で腹ばかりふくらんだ少女が、
乾いた大地にしゃがみ込んでいる。
その数メートル後ろでは、地面に下りた一羽のハゲワシが、
少女の方を向いている。
写っているものは、それで全てだ。
けれど、この写真は強い連想を呼び起こす。
ハゲワシはなぜそこにいて、しゃがみ込む少女を見ているのか。
– – – – 間もなく命尽きる少女を餌食にするためだ。
飢餓ゆえに人間が死に、鳥がそれを食おうとしている。
この写真は、その内包するメッセージの強さゆえに、ピュリッツァー賞を得た。
しかし、写真家は称賛だけでなく、大きな批難にも晒された。
[ なぜ ] と、批判者は言った。
[ なぜ少女を助けなかったのか? その場にいながら、
あなたはただそれを撮るだけで、死のうとした少女のためには、
何もしなかったのか? ]
写真家は反論した。
そうではない。見殺しにしたわけではない。
私は、少女が自力で立ち上がって配給所へ歩きだすのを、
確かめてから、その場を立ち去ったのだと。
しかし、少女の無事を見届けるカメラマンを撮った写真はない。
疑問と批難の中、ピュリッツァー賞受賞者ケビン・カーターは、
自らの命を絶った。
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