2013.10.16
『 あの女に惚れて、恥じることはなかろう。
それも、ちゃんと、わしの知らんうちに、
陥してしもうたんじゃからのお。
気位の高い、元華族の絶世の美女を。
自慢にこそすれ、恥じる理由はありゃせん。』
『 大金を貢ぎました。その金は、
社長を裏切って作った金です。』
『 貢いだなんて言い方はするな。
貢いだんじゃあらせん。おまえは、恵んでやった。
助けてやったんじゃ。
ひよこ一羽飼うのと、象を一頭飼うのとは、
餌代が違うて、当たり前じゃ。』
「 流転の海 」 by 宮本 輝