その頃には、授業が終わって、さくらの部屋に入ると、
それこそ、机に鞄を置く時間も惜しいほどの性急さで、
襲いかかっていた。
「 鞄くらい置かせてよ 」
「 じゃ、早く置いて置いて 」
「 まったく、ムードもなんもないんだから。
ちょっとくらい待てないわけ? 」
「 毎日、毎日、俺がどれぐらい待っているか、
知らないだろ?
バスでここに来る時はもちろん、授業中だって、
死ぬ思いで、待ってんだぞ。 」
「 大袈裟ねぇ 」
「 いや、授業中なんてもんじゃないよ。
朝なんか、ここに来ることだけ考えて起きてんだぞ。
もっと言わせてもらえば、
昨日、ここから帰ったろ?。あんときから待ってんだからな。」
当時は、本気で言っていた。
さくらの部屋で過ごす二時間だけが、
人生だったと言っても過言ではなかった。